今日は、会館にてご納棺をさせていただいた故人様と、そのご家族の皆様にまつわる、あたたかな一時のお話をさせていただこうと思います。
『琴棋書画』という言葉があります。
これは中国の故事で、文人や士人が嗜むべきとされた琴、囲碁、書道、絵画という4芸のことを示します。囲碁にまつわる故事やことわざは多く、たとえば『一目置く』や『名人』なんて言葉も囲碁から発生したと言われています。
今回は、ある故人様の趣味に関するお話です。
このお話の主人公は男性の故人様。
ここ5年ほど体調を崩され、最後の時を奥様と共に入所された施設にてお過ごしになられていました。ご納棺には喪主様と、故人様の連れ合い様を含めたお身内7名ほどが立ち会われました。
やはり昨今のコロナが流行っている情勢にて、久しぶりに皆様お会いになられたのでしょうか。思い出話に花を咲かせていらっしゃいます。
お手当中、お着物お着付け中に皆様のお話に混ぜていただき、故人様のことをたくさん教えていただきました。
大酒飲みで、夏も冬も日本酒一筋であること。1番お好きなおつまみは奥様の手料理ではなくて、海苔の巻かれたおかきであること。
銀行員として定年退職されるまで本当に勤勉に働かれて、あんまり家に居られた記憶はないこと。それから、趣味の囲碁に関しては本当に名人で、段位まで持っている腕前であること。
故人様がお元気だった当時は週休2日の会社はまだ珍しく、また大変に景気の良い時代であったため銀行員だった故人様はいつも忙しくお仕事をしていらしたそうです。ほとんど家にいることのない働く父の背中を見て、喪主様は育ってこられました。
そんな故人様がお家にいる数少ない時間はいつも日曜の夕方。その時間は決まって、喪主様は故人様と囲碁をされていました。口数が少ない不器用な父が誘ってくれるそれがどうにも嬉しくて、喪主様は精一杯故人様に勝負を挑んでは、毎回ボロ負けしていたとのこと。
「不器用で、真っ直ぐな人だったから、子供相手に手を抜くなんてできなかったんだろうね」皆様は笑ってそうおっしゃいました。碁に負けたら将棋で勝て、なんてことわざもありますが、なんのなんの。故人様は大変将棋も強かったご様子。何をしたら勝てるのかと父に泣いて縋ったのも良い思い出だと、喪主様と故人様の連れ合い様も笑っておられました。
故人様がお仕事を定年で辞職された後、お孫さんが生まれてからは丸くなったけど、それでも将棋や囲碁に関しては真剣。
駒の動かし方を覚えたばっかりのお孫さんと将棋で対局した時にも、鋭い目で「それはない」と仰ったそうです。
それでも、そこも含めて。お孫さんにとってはお茶目で大好きなおじいちゃんでした。すっかり白装束に着替えられて、皆様のお手でお棺にご移動された故人様。私がお棺の中を整えている間に、お立ち合いになられた皆様が一度ずつ、故人様のお手元を撫でてゆかれました。いつも将棋や囲碁を共に嗜んでいたその手。皆様には、一体どんな思い出が広がったのでしょうか。パチンと、碁石を置く高い音が響いた気がしました。
かとう葬儀では、『結葬』皆様を結び合わせる、新たなお葬儀のあり方を模索・提案しております。思い出に寄り添いながら皆様と一緒に最後のお時間までの過ごし方、してさしあげたいことなど、お手伝いさせていただければ幸いです。
ご納棺をお手伝いさせていただく私たちは、ご家族の皆さまの思い出に寄り添い『その人らしい』お別れに近づけるよう努力しております。